甘〜sweets

2016/03/31

「09 大仏煎餅、国宝をいただきます。」

江ノ電長谷駅から歩いて数分、
長谷寺の参道につづく県道の角に
老舗和菓子店「恵比寿屋」がある。

その看板商品の一つに
『 大 仏 観 音 煎 餅 』という
焼き菓子があるのだが、そのカタチは、名前の通り
高徳院*の大仏さまと、長谷寺の観音さまの姿を象ったもの。

(*詳名は「大異山高徳院清浄泉寺」通称は「鎌倉大仏殿高徳院」 )

観音さまは、光背のシルエットで全体の形が
切り取られているのだが、大仏さまは、
その姿そのものが煎餅の輪郭になっている。
大仏さまの全身をいただく、という構えである。

大仏観音さま煎餅s.jpg

戦後間もない昭和25年に、神奈川県指定銘菓となり
全国菓子大博覧会名誉金賞を受賞。

神奈川県指定銘菓と賞トロフィー,jpg

かなり大きな瓦せんべいといった感じで
カステラを薄く焼いたような香りがする。

さっそくいただこう、と
煎餅を両手で持ってみたものの、
ふと手が止まる。

まず
第一に、大仏さまに"かぶりつく"ことに躊躇がある。
第二に、煎餅が思いのほか、分厚く硬い。
かなりの硬さである。

そういえば、
子どもの頃食べた煎餅は
丸い醤油煎餅も、瓦煎餅も、厚みがあって硬かった...

今どきのお煎餅は皆、スナック菓子のように薄くて軽くて
歯ごたえのあるお煎餅は珍しい。

大仏煎餅は、そんな時代を超越している。

おもて.jpg

かぶりつくことはやめ、手元で割ろう。

まず台座のあたりを大きめに割り
さらに一口大に割って口に入れ、
バリッボリッと音を立てながら噛みしめると
思いのほか やわらかくなっていく。
甘味がふわっと広がって、香ばしい。

大仏さまは、だんだん小さくなっていき
最後に首の部分が残ってしまった。

「いただきます」と心の中でつぶやき、
完食。
せんべいうら.jpg

鎌倉の大仏さまを象った御菓子は、
今や、べっこう飴、グミ、まんじゅうetc.さまざまに展開され
いくつかは、高徳院の境内の土産物店にも並んでいる。

大仏さまのシルエットは
単純化され、より丸っこくなり
instagram には、kawaii!というコメントとともに
写真がアップされていく。

あらためて考えてみれば、
鎌倉の大仏さまは、国宝である。
しかも、
信仰の対象である阿弥陀如来さま
という悟りの極みに達した存在を、
御菓子にして食べてしまうなんて...


例えば、フランスのアルザス地方には
復活祭の時に食べるものとして
キリストを象徴する"犠牲の子羊"を象った御菓子
"アニョー・パスカル"がある。

しかし、キリストそのものの姿を象った御菓子といったものは
果たして世界のどこかにあるのだろうか...

主にカトリックの教会のごミサには
司祭が信者に、キリストのご聖体を意味する
小さなパンのようなものを与える「聖体拝領」
という儀式があるけれど、やはりキリストの姿は象らない。


大仏さま斜め,jpg.jpg

大仏さまのお煎餅や飴には、
深い宗教的な意味はない。

そこにあるのは、何だろう...


鎌倉の大仏さまは、
鼻筋以外ほぼすべてのラインが曲線的で
近づくほど、空を背負って大きくて
見上げると、細く優しいまなざしがある。

建物の覆いを二度、自然災害で失って
それから700年以上もの間、
太陽の光を浴び、雨を受け、風を受け、雪をかぶり
月や星の明りに照らされて、
来る日も来る日も、じっと座り続けている。
ただその事実が、静かに私たちの胸を打つ。

そして堂々と360度、
人々からの視線をどこから受けても動じない。

これからもずっと、その姿が変わらずにあり続けるように
今年 1月13日から3月10日にかけて、
50年に一度の保存修繕を行うための下調べ「健康診断」が行われた。

保全修理の健康診断中,jpg.jpg

足場が組まれ、覆いに囲まれ、クレーンと向かい合う姿は
いつもと違った風景になったけれど、
再び現れた大仏さまのシルエットは、より一層クッキリと見える。

高徳院境内の桜,jpg.jpg

私たちは、高徳院へ行くと
大仏さまの姿を遠くから見つけ、大仏さまと一緒に写真に写ろうとし、
近づいていって見上げ、目を合わせようと試み、手を合わせる。

そして、大仏さまの左足側から体内へ入り
内側から頭部を見上げ、静かに感動してタメイキをつき
外に出て再び、ぐるりぐるりと一巡りして姿を眺める。

こんなことが毎日、誰にでも許される国宝、仏さまは、
他にはない。

『南無阿弥陀仏』と唱えれば、
誰もが極楽浄土へ迎え入れてもらえるという
浄土宗法然上人の教えは、この佇まいそのもの。

大仏さま封シール.jpg

愛しの大仏さま。
心に残る大きなシルエットを
手の中の御菓子に重ねる時、
そこにはきっと「愛」がある。


*保存・修理についてくわしくは
http://www.kotoku-in.jp/pdf/2016pdf/20160127_repair.pdf

*鋳造法の解説アニメーションがわかりやすくて楽しい
http://www.kotoku-in.jp/characteristic.html


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恵比寿屋
0467-22-0231
鎌倉市長谷2-14-26
8:30〜19:00(12月から2月は〜18:30)
木曜定休(祝日の場合は前日)

大仏さまの輪郭を型抜きした
小さなサブレもあります。

大仏さま観音さまセット.jpg


photo&文 中尾京子

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