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2014/07/18

「鎌倉の匠シリーズvol.2 - 鎌倉仏師 大森昭夫氏を訪ねて」

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鎌倉の匠シリーズ - 鎌倉仏師・大森昭夫氏を訪ねて
<第2回> 仏像彫刻 制作風景

鎌倉の匠シリーズ - 鎌倉仏師・大森昭夫氏を訪ねて。第2回目となる今回は、現在制作中の彫刻作品なども見せて頂きながら、実際の制作はどのようにして進められていくのかを辿っていきたいと思います。





工房を訪ねて、通された部屋は広々と天井高く明るい光が差し込んでいました。そこで私が最初にお会いしたのは、なんと真っ白な仏さまたち。いくつもの白い仏さまが所狭しと並ぶ様は、今まで観た事のない光景で、清々しくもあり神々しくもあり。なんとも不思議な心地となりました。実はこの、真っ白な仏さまは実際に仏像を彫る前に、ご依頼のあった寺院などへお見せする1/2スケールの石膏型なのだそうです。


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仏像彫刻、と言っても、実際にノミを使い彫り出すのは後半戦です。すべてが彫りだせる状態になったとしても、そこから台座・光背・ご本尊を仕上げていくのには、それぞれに1カ年ほど要します。そして、その前までの作業も、それはそれは多くの時間と手数が要されています。この彫像に関しても、完成までには約1年ほどの月日をかけて仕上げられていきます。


ー 原型にはたっぷり時間をかけます。これが出来上がると、気持ちの中では半分くらい終わってる感じになれますね。


それほどにまで気持ちを入れて原型を作るのは、依頼された方の気持ちに添うためだと言います。台座や光背は図面に描かれた設計図から離れることはありませんが、ご本尊はいくら描き込んでも、いくら説明を尽くしても、実際の姿を見るほど確かな感覚はないのだそうです。ほんの少しの顔の傾き、瞳の伏せ具合、指先の表情、そうした細々が、毎日手を合わせ祈りを捧げる依頼主の方の気持ちに寸分違わず "ぴたりと添う" 、そういうものを作り上げるために、とても重要な工程なのです。


OM_005.JPG<全体図面。この段階でもかなり細かい>


依頼を受けて、まず始めに取り掛かるのは、全体の設計図の制作です。台座・光背を図面に書き出します。


これで構想が固まったら、実寸で図面を書き起こします。


この画を依頼主に見てもらって納得頂ければ、いよいよ粘土原型の制作に入ります。出来上がった粘土型は外側に石膏を流し掛け、この石膏が固まったら中の粘土を掻き出します。これで雌型ができます。


OM_006.JPG雌型の内側に剥離剤(石けん)を塗り、ふたたび内に石膏を流し入れます。中の石膏が完全に乾燥したら、外側の石膏を壊して、中の石膏型(雄型)を取り出します。これが1/2スケールの完成見本となります。


<仏面の粘土型。生徒さんもこうして同じような工程を辿って学びます。>






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<上/実寸の迫力と描き込まれた光背の唐草模様の美しさに、取材スタッフ一同ため息>
<下/ご本尊は別に透写紙に描かれている>

OM_009.JPG原型制作と併せて、材料探しも始まります。


その像に最適な木材を求めて、自ら材木問屋へ足を運び、木を見せてもらって、大きさや質などを確かめて探します。大森氏はおもに、檜や桂を好んで使われるようですが、中でも尾州産(愛知と岐阜の県境一帯)檜は、その密度・硬さ・粘りが仏像を彫るのに一番なのだとか。


白い石膏型をよく見ると、付番してあるのが見て取れると思います。

これが、どの木をどの部分へ使うかという地図の様なものです。


このような寄木造りの仏像が造られるようになったのは鎌倉時代以降で、それまでの大木から掘り出すのでは限りがあった仏像の形や大きさは、この技術により、より大きく自由な姿を造り出すことが出来るようになりました。


と同時に、様々な木を組み合わせるのですから、それぞれに狂いが生じないよう、木の質(たち)を見極め、どのように接ぐ(はぐ)のかという技が要となります。


木にはそれぞれ相があり、像の強度を上げるため、上半身は縦に、薄くなった下半身(こちらの観世音菩薩の場合、座られた前に立て膝をされている右足と組まれた左足の部分)は横に使います。このため、木材の相の向きが変わるので、木肌の色味にごく僅かに差異が出てきますが、大森氏は、"いかに像を永く伝えるかという事を考えると、これが自然な方法なんだ"と話します。


ー 仏さまっていうのはね、永年持たなきゃいけないんですよ。まあ、少なくとも自分が生きてる間はね、自分が作った仏さまが動きだしてばらばらになっちゃったんじゃ話しにならない。木は生き物ですからね、勿論動きはしますけど、そこを勘案してきちっとしたものを作らないと、それを拝みに来た人たちの想いに応えられない。それは見た目の美しさなんかより大事なことです。


木像彫刻である仏像はお堂の中ではあっても、湿度温度が調節された展示品としてガラスケースに収まっている訳ではありません。外気に晒され、砂埃を被って据え置かれ、彫像としては過酷な運命を辿ります。そこには、祈りに訪れ手を合わせる人々と同じ場に在ってその心を照らしたい、という僧侶たちの想いが託されています。その想いに応えるため、仏師はあらゆる技を駆使して、長き歳月を耐えうる像を作るのです。


静かに微笑むこのうつくしい仏さまは、ただうつくしいだけではなく、この後の世の、何十年何百年を見つめ続ける力強さを秘めていたのだ、と改めて知りました。そうして、ふたたび工房に並ぶ白い仏さまたちを見つめ直すと、あたらしい感動の心地が湧き上がってくるのを感じました。




(rica)


*第3回は、仏さまを彫るというのはどういう事なのかを大森氏へのインタビューを中心にお伝えします。

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