恵

2013/11/22

「清右衛門のみちくさノート 11月号」

『今月のテーマ:秋の野の宴』


季節は、小雪(しょうせつ)。よく味の染みたおでんが恋しくなります。この時分の鎌倉の空気は、朝晩ひやりと谷戸谷戸に留まって、誰もが朝に夕にその空気を食んで歩くのです。

昼ともなれば関東一円はもとより、日本中から寺社の紅葉を求めるみなさんがどっと押し寄せ、鎌倉はアジサイの頃と並ぶ大混雑。と来れば、モミジの話を書くのが筋のようでもあるけれど、どうやら僕の根性はいささか曲線率が高いようなので、やはり草のことを書くことにします。

先だっては「叢(くさむら)」の話をしましたが、今度は「葎(むぐら)」という字を取り上げます。秋に限らないのですが、蔓草や丈が長いのに真っ直ぐ立たず、もじゃもじゃと絡みあっているようすや、その草を指す言葉です。夏であれば、人を一切寄せ付けない「草ぼうぼう」というやつで、ただ厄介なだけなのですが、秋も深まれば、程よくおとなしくなり、しんなりと道端や山裾や川端にわだかまって千々に花を咲かせたり、実をつけたりしており、なかなかに捨てておけない魅力があります。

彼ら秋の野の草どもは、いわゆるお花屋さんや庭の花々と違って「定型」というものを持たず、果てしなくずるずると伸び、果てしなく絡まり合い気ままそのものです。分け入れば衣服におびただしい草の実が付き、まんまと彼らの版図拡大に加担させられることでしょう。もちろん、どのくらい草刈りをしているかで、その絡まりぐあいが軽くなったり、ひどくなったり、いろいろと違いがあります。

たとえば、山手でも街中でも頻繁に見かけるノコンギクは、いわゆる野菊です。野菊は専門の図鑑がでるほどたくさんの種類がありますが、このノコンギクは葉も少しかさかさとしていて、しっとりとした鎌倉の景色の中ではやや澄ました顔をしています。

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ノコンギク Aster microcephalus var. ovatus キク科 多年草


林の縁であれば、エビヅルが深い深い紅色に色づいていることでしょう。ほかのものに絡み付く蔓性の多年草で、毛も纏って暖かかそうなようすは、のっぺりとした「秋の流行色」のようなものでは敵わない魅力を備えています。果実は酸っぱいながらもちゃんとブドウの味。食べられます。

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エビヅル Vitis ficifolia var. lobata ブドウ科 多年草


谷戸の湿地や川べりには、コンペイトウのような花を咲かせるミゾソバが絡み合い葎となっています。桃色一色のこともありますが、鎌倉のミゾソバは花弁の爪先だけに紅を差したような色が多く、湿地を埋め尽くすようすは、心踊る眺めです。

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ミゾソバ Polygonum thunbergii タデ科 一年草


鎌倉には多くの谷戸があり、人の気質もそれぞれとのこと。その谷戸の、辻々でひっそりと、ときには盛大に葎どもの饗宴が催されています。宴の席は小さく、大御馳走というよりは、小鉢がいくつもあるような味わいです。なるほど紅葉の大宴会もなかなかに捨てがたいものがありますが、ここはちょっとまなざしを落として、秋の野の小さな宴に列席するのも一興ではないでしょうか。ついでに、歩き疲れたら街中に下がる暖簾をくぐるのもまたよいものです。


次回はたぶん、落ち葉と除夜の鐘について。

(清右衛門)2013年11月

四季の草花や木について、通称「みちくさ部長」清右衛門が移住者の視点からご案内。鎌倉らしさを探究していきます。

▽北鎌倉たからの庭 みちくさ部
http://takaranoniwa.com/program/workshop/michikusa.html

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